#09. 異文化理解と心理

[88]次の文章を読んで、答えよ。
 「文化」という語は一般的な日本語でも用いられるが、この言葉の定義自体に一般的な明確なものはないと言ってもいい。しかし、少なくとも、次のような基準で分類することは可能である。一つは①「高 ( high ) 文化」対②「低 ( low ) 文化」、もう一つは③「C ( 大文字C )文化」対④「c ( 小文字c) 文化」のように対立的にとらえる基準による分類である。日本における英語教育では、今までは「高文化」と「C文化」が取り扱われるのが普通であった。振り返って、日本語教育における「文化」の扱い方はどうなのであろうか。現在の日本語教育では、外国人が日本語を習得するに際して、言語的な要素だけでなく、日本人の行動様式や習慣、あるいは価値観といったものを効果的に教授することは不可欠であるという感覚をもって指導しようと考える教師が大半であろう。

文章中の①~④の文化に当たるものをそれぞれ一つ選べ。
a. 文学や思想、哲学のような高尚な文化
b. 生活行動の背後にある背景的な文化
c. 生活習慣のような具体的な文化
d. 文化的行事や祝日などのような顕在化した文化

[89]次の文章を読み、後の問いに答えよ。
一般的に異文化適応にはいくつかの段階が認められる。S.リスガードは、1955年に初めて適応の流れを(1)仮説として提唱した。すなわち、外国に渡った当初の高揚期から次第にストレスがたまり反発を感じ始める時期を経て、最後には二つの文化を統合していくという過程である。その後、K.オバーグの7段階仮説やJ.T.&J.E.ガルホーンらの(2)仮説では、帰国後の経過も踏まえられた。
帰国後の落ち込みは(3)と呼ばれる。これは、本人の価値観や行動様式が出国時とは異なっているという認識を周囲も本人も持っていないことから、予想以上にインパクトが大きい場合がある。

問1)文中の(1)に入る最も適当なものを選べ。

  1. Vカーブ
  2. Nカーブ
  3. Uカーブ
  4. Jカーブ

問2)文中の(2)に入る最も適当なものを選べ。

  1. Mカーブ
  2. Wカーブ
  3. Sカーブ
  4. Zカーブ

問3)文中の(3)に入る最も適当なものを選べ。

  1. リエントリー・ショック
  2. クリティカル・ショック
  3. リサイクル・ショック
  4. インフォーマル・ショック

[90]次の文章を読み、問いに答えよ。
学習者オートノミーとは、学習者が自分の学習の理由、あるいは目的と内容、方法に関して選択を行い、その選択に基づいた計画を実行し、結果を評価できる能力である。
第二言語教育において、学習者オートノミーという用語が初めて使われたのは、1960年代後半のフランスであった。学習者オートノミーを目指した初期の実践は、この時代のフランスの政治的状況を反映したものであり、(1)、パウロ・フレイなど伝統的な教育制度を批判した同時代の理論家・実践家の影響を受けていたとされる。
学習者オートノミーは、学習者が生来持っているものではなく、教育の中で育てるものであるという見解は多くの実践家・研究者に共有されている。第二言語教育は学習者オートノミーを育てることを目標にすべきであると主張する人々もいる。

問1)文章中の(1)に入る適当なものを選べ。

  1. ジョン・デューイ
  2. イヴァン・イリイチ
  3. セレスティン・フレネ
  4. ルドルフ・シュタイナー

問2)文章中の下線部の理由として不適当なものを選べ。

  1. 自分で選択することが外発的動機につながる。
  2. 自分の学習に関する選択を行うことは学習者の権利である。
  3. 社会の急速な変化に対応するためには、生涯にわたって学び続ける必要がある。
  4. 第二言語使用者として成功するためには、自分のことは自分ですることが欠かせない。

[91]外国人学習者から「異文化摩擦」についての相談を受けた場合の教師の対応を記した。適切でないものを選べ。

  1. 教師自身の異文化での体験を話し、学生を元気づける。
  2. ベテラン教師はこういう場合のノウハウを持っていることが多いので、ベテラン教師に相談をして適切な対応を考えてみる。
  3. 学習者が、どういう点について悩んでいるのかをよく聞きだし、問題点について話し合い、できるだけ納得してもらえるように努める。
  4. いろいろな学習者がいろいろな悩みを持っていることを話し、日本の習慣や日本人の考え方に慣れるには時間が必要だということをわからせる。

[92]次の文章を読み、各問いに答えよ。
 異文化環境に一定期間滞在した人は、多かれ少なかれ誰でも、心理的、生理的なショック、すなわちカルチャー・ショックを経験すると言われている。症状が軽い場合は間もなく回復して新しい文化に適応するが、症状が重い場合、ノイローゼになるなど深刻な異文化不適応状態に陥ってしまう。
このカルチャー・ショックの原因となる文化的相違としては、法律などの社会的規範、人間関係を築く上での慣習、 (ア) といったさまざまなものが挙げられる。
異文化への適応過程については、Uカーブ仮説あるいはWカーブ仮説のモデルで説明されることが多い。Uカーブ仮説を例にとれば、異文化環境に身を置くことになった初期(Uの左上)からしばらくは新しい環境への期待感、新鮮な刺激への幸福感などから (イ) と呼ばれる時期があり、やがてその幸福な段階を過ぎると、徐々に不安や不満を感じる状態に陥る。この段階を無事に乗り切ることができれば、自文化と新しい文化の相違や、それぞれの長所短所を客観的に理解し、受け入れることができるようになる。最終的にはU字の右上にあるように、無事に異文化に適応し、平穏な心の状態を取り戻すことができるようになる。
もう一方のWカーブ仮説によれば、異文化環境における一定期間の滞在後自文化に再び戻ってきた人が、自文化に対するカルチャー・ショックと適応の過程を経験するという。これが (ウ) と呼ばれるものである。
海外留学生や駐在員など、長期にわたる異文化滞在が予定されている人を対象にして、このカルチャー・ショックを和らげ、異文化に順調に適応するための訓練を行うことがある。この訓練には、A認知面、B情意面、行動面の3種類があるが、実際にはこれらを適宜組み合わせて実施される。

問1)文章中の (ア) に入れるのに不適当なものを選べ。

  1. 衣食住に代表される物質文化
  2. 言語・非言語メッセージの行動文化
  3. 価値観・世界観のような精神文化
  4. 詩歌・絵画・音楽などの伝統文化

問2)文章中の (イ) に入れるのに最も適当なものを選べ。

  1. 蜜月期
  2. 充実期
  3. 高潮期
  4. 高揚期

問3)文章中の (ウ) に入れるのに最も適当なものを選べ。

  1. クリティカル・インシデント
  2. リエントリー・ショック
  3. アカルチュレーション
  4. アイデンティティ・クライシス

問4)文章中の下線部A「認知面」での訓練に関連しないものを選べ。

  1. 目的とする異文化についての地理、政治、経済について学ぶ。
  2. 異文化摩擦の具体例を示し、自分ならどう行動するかを話し合う。
  3. 講師は、専門知識を持っている人か前任者などが担当することが多い。
  4. 講義形式で行われるのが中心で、その他ビデオ、映画なども使われる。

問5)文章中の下線部B「情意面」での訓練の手法として、シミュレーションなどが挙げられる。このうち、参加者全員を二つの独特な文化にわけ、それぞれの文化様式を身に付けた上で、相互交流を行い、異文化接触の経験を図るものを何と言うか。最も適当なものを選べ。

  1. デブリーフィング
  2. エコトノス
  3. バファバファ
  4. バーンガ